視聴率操作!◎テレビそのものの信頼性を揺るがす『視聴率操作』日本テレビのプロデューサーが調査対象世帯を買収し、視聴率を操作した。 あまりの愚劣さにあきれるばかりだ。 その行為が、テレビ番組に関わるすべての人々に、スポンサーに、そして視聴者に、 ぬぐい去ることのできない不信感を生むということが分かっていない。 あるのは自らの虚栄心、功名心のみだ。 私は大学を卒業して2年間、ビデオリサーチに勤務した。 東京キー局で新人研修を受けたが、その時「視聴率は番組の質を示すものではない」ということを 力説する部長がいた。 その通りだ。視聴率はその名の通り、見ている人の割合を表したもの。 絶対評価ではなく、相対評価に過ぎない。 視聴率や世論調査などの標本調査には「標本誤差」と呼ばれる誤差がある。 例えば視聴率10%が持つ誤差は、プラスマイナス2.4%。 その大きさを考えれば、今回、プロデューサーが買収した四世帯の占める最大値 0.67%という数値はとるに足らない。 しかし、その四世帯分が効果を発揮した結果、10%になったとしよう。 すると、二桁に乗ったその数字だけが独り歩きし、あたかも絶対的な評価のように扱われる。 視聴率至上主義だと非難することはたやすい。 しかし、他にかわる指標がない今、その数字だけで制作現場は動き、巨額な広告費が局の間を移動する。 視聴率調査がビデオリサーチ一社の独占状態ということにも問題はある。 調べる側から調べられる側へ立場が変わり、私も視聴率の存在を苦々しく思う時がある。 だが、たとえ視聴率調査会社が数社あったとしても、出てくる数字はそれぞれ違ったものになる。 テレビ局はその中の一番高い数字を使うだけ。それでは指標としての意味をなさない。 実際、ニールセンという視聴率調査会社があった頃、二社の視聴率は同一番組でも違っていた。 勝った負けたが逆の結果になることもあり、「真実はひとつのはずだ」という声も聞かれた。 しかし、統計理論上はどちらも正しいのだ。 今回の事件でビデオリサーチは調査世帯の管理の甘さを指摘されている。 視聴率調査を実質的に独占する企業として、そのそしりは免れまい。 だが、メンテナンスの車のあとをつけるという悪意ある行為を完全に回避することは困難だ。 興信所を使う安直な方法ではなく、例えばメンテナンス車に発信器を取り付けてGPSで探るなど、 調査世帯を特定することは現在の技術ですれば簡単だ。 調査世帯の視聴データは電話回線を利用して収集されているが、その回線を操作することも可能だろう。 米国防総省のコンピュータがハッキングされる時代なのだ。管理することには限界がある。 何よりも、視聴率に限らず調査というものは、調査される側が今回のような不正をしないという 暗黙の了解の上に成り立っているのである。 視聴率という概念が日本に登場してから四〇年以上になる。 その長い年月をかけて関係者が築き上げてきた信頼性。 それだけが、視聴率が指標として存在し得る唯一の拠り所なのだ。 その最も大切な根幹をプロデューサーという制作責任者が自ら揺るがせた。 責任は重い。 新人研修の際、ある担当者は今回の事件のような調査世帯を探ろうとする者の存在をあげ、 その行為はテレビという媒体そのものの信頼性を瓦解させると説いた。 その危うさを、今、痛感している。(2003年10月) ジャンル別一覧
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